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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)4534号 判決 1968年3月30日

原告

曾我部初子

曾我部一二

右原告両名訴訟代理人

山下潔

被告

前川剛

右訴訟代理人

吉住慶之助

主文

一、被告は、原告曾我部初子に対し金二、五六〇、五八七円、原告曾我部一二に対し金二〇〇、〇〇〇円、及び右各金員に対する昭和四一年一月四日から支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求はいずれもこれを棄却する。

三、訴訟費用は二分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四、この判決第一項は仮りに執行することが出来る。

五、但し、被告において、原告曾我部初子に対し金二、〇〇〇、〇〇〇円、原告曾我部一二に対し金一六〇、〇〇〇円の各担保を供するときは、右各仮執行を免れることができる。

第一 申立

被告は、原告曾我部初子に対し金五、三四三、八五二円、原告曾我部一二に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、及び右各金員に対する昭和四一年一月四日から各支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

第二 争いのない事実

一、本件交通事故発生

発生時 昭和四一年一月三日午後〇時三〇分頃

発生場所 津市雲出川北約一〇〇米の地点

事故車 普通乗用自動車

右運転者 被告

受傷者 原告初子(ライトバンに同乗)

態  様 原告 初子が同乗していたライトバンに事故車が追突し、よつて同原告は受傷した。

二、事故車の運行供用と被告の過失

被告は事故車を所有し、自己の歯科医の業務のため使用していたもので、事故車運行上の過失があつた。

三、原告らとその長男の親族関係

原告らは夫婦であり、二才になる男子がある。

第三 争点

(原告ら)

一、被告の責任原因

被告は第二の二の事実に基づき事故車の運行者責任及び過失責任を免れない。

二、原告初子の傷害及び後遺症

本件事故は原告車(前記ライトバン)が信号待ちのためほとんど停車直前で、原告初子は同車の後部座席の右端に坐つていて、眠ろうとして横を向いた瞬間、時速約五〇粁で進行してきて原告車から約六米のところで急制動の措置を採つた状態の事故車が追突し、そのため原告車はその前車にいわゆる衝突玉突したもので、原告初子はこれらの衝撃のため三回以上首部の屈曲、伸長を繰り返し、且つ座席頂部に取付けられてあつた金具で後頭部を打ち、そのため頭部外傷後遺症並びに頸椎捻挫(むちうち損傷)の傷害を受けた。

即ち、原告初子は本件事故直後頸椎部、後頭部に痛みを覚え、門真市の自宅に帰宅した昭和四一年一月五日には、手が痛み、頭が重く、吐気があり、首が痛んでひきつり、うつむくことが困難となつたので、生井克美医師の診断を受け、頸椎部後遺症(脳圧亢進、)頸椎部捻挫、即ちむちうち損傷であると診断され、右同日から生井病院に入院し、その後前記症状がやや軽快したので同年二月四日退院していたところ、病状が悪化し同年五月二六日頃通院の帰途、目がくらんで路上に倒れたため、同月三一日再び生井病院へ入院した。しかし長期入院による長期の家庭生活との断続は精神的に却つて治療効果を減殺するため昭和四一年一二月二八日退院し、以後現在迄同病院への通院を継続しているもので、原告初子は現在、後頭部痛項部痛、肩こり、右手の脱力痛み、しびれ、めまい、記憶障害、眼のかすみ、右手の著しい握力低下、右上肢の知覚障害、右手筋萎縮、前斜角筋の圧痛、大後頭部神経の圧痛等の症状がある。

三、原告らの損害

(一) 原告初子

(1) 療養費

別紙療養費表記載の如く合計八三五、六七五円を支出した。

(2) 逸失利益

原告初子は主婦として家事労働に従事していたところ本件事故によつてその労動能力を喪失したが、労働大臣官房統計調査部の統計によれば、全国女子労働者の昭和三九年度の平均賃金は一ケ月一四、六三七円であるから一日四八七円となることからすれば、原告初子は右労働能力の喪失により、昭和四一年一月四日から同四二年一〇月三〇日迄の間、一日四八七円宛合計三二一、九〇七円の得べかりし利益を失なつた。

(3) 慰藉料

原告初子は前記の如く治癒の見込のたたない後遺症状に苦しめられ、その治療のため長期に亘る入院並びに通院を継続していて、後遺症状とその治療のため三才になる長男誠の養育を初め家事にほとんど従事出来ばかりか性欲を減退し、そのため家庭生活は崩壊寸前となつている。そこで原告初子の精神的苦痛に対する慰藉料は四、〇〇〇、〇〇〇円に相当する。

(4) 弁護士費用

原告初子は、被告が同原告の本件事故による前記の如き後遺症状を争い一〇〇、〇〇〇円をもつてする示談を申出た外は誠意を示さないので、昭和四一年五月一六日止むなく大阪弁護士会所属弁護士山下潔に対し被告に対する本訴追行を委任し、大阪弁護士会報酬規定に従い着手金三〇、〇〇〇円を支払い本訴の判決言渡の日において三七〇、〇〇〇円を支払うことを約した。

(二) 原告一二

原告一二は、妻である原告初子の前記の如き後遺症状並びにそのため、勤務と家庭並びに子供の養育という二重の負担を負わされ、家庭は根本的に破壊されてしまい、その上原告初子の症状が今後も永続するのではないかとの不安を抱きつつ妻と子供の面倒を見続けなければならない精神的苦痛は甚大なものがある。よつて原告一二に対する慰藉料は一、〇〇〇、〇〇〇円に相当する。

四、損害填補

原告初子は被告から二一三、七三〇円の支払を受けた。

五、本訴請求

以上により、被告に対し、原告初子は右三(一)(1)ないし(4)の合計五、五五七、五八二円から四の二一三、七三〇円を控除した残額五、三四三、八五二円及びこれに対する本件不法行為発生の翌日である昭和四一年一月四日から支払済迄年五分の割合による遅延損害金の、原告一二は右三の(二)一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する本件不法行為発生の翌日である昭和四一年一月四日から支払済迄年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。(被告)

一、示談成立並びに弁済の抗弁

被告は昭和四一年一月四日、原告らの代理人である曾我部正及び曾我部弘との間で本件事故による損害につき示談をし、原告初子の治療費として二四五、七三〇円を支払つた。

二、原告初子の後遺症に対する反論

(一) 本件事故時の状況

本件事故は時速三〇ないし四〇粁の速度で進行していた事故車が原告車との車間距離を二、三米しか保つていなかつたため同車に追突したものであるが、原告車も停止していたのではなく時速一〇粁前後の速度で進行中であつたから、追突の衝撃も被追突車が停止していた場合に比較して軽微な筈である。

又、原告車の後半分は座席のない平面床の荷物積載室となつていて(以下この部分をロッカーという)、後部外側へ開閉し得るようになつており、その内側中央附近に横約三〇糎、縦約一〇糎、突起部の高さ約一〇糎のロッカー開閉用のテールゲートハンドルがある。原告初子は本件事故当時このロッカー部に乗車し後部に背をもたせかけるようにしていたので、本件事故で衝撃が生じた際、同原告の上半身及び頭部はロッカー後部車体に支えられ、唯後頭部のみが僅かな空間を経てテールゲートハンドルに当つたにすぎずむち打症の原因である背部から上に何らの支えもない状態で頸椎部が追突の反動で六〇度以上後方へねじ曲げられるような状況は発生しなかつた。即ち、原告初子はテールゲートハンドルで後頭部を打つたことにより、治療約七日を要する後頭部打撲傷を受けただけであり、原告車のロッカーに同乗していた原告初子の母及び他一人の女性は何らの傷害も受けていない。

(二) 因果関係の不存在

原告初子は本件事故前から身体脆弱で、頭痛、立ちくらみの持病があつた。従つて同原告主張の如き症状は本件事故によつて生じたものではない。

(三) 原告初子が昭和四一年一月五日入院したのは、当時の症状に拘わりなく事故直後からの保険金及び被告から慰藉料を取得しようという計画に基づくもので、同原告はこのような目的で虚構の症状を主張しているものである。

三、慰藉料及び弁護士費用の主張に対する反論

被告は、原告らに対し事故直後から誠意をもつて責任を果して来たもので、原告初子の治療費についてもその支払を約し生井病院に対し同原告の治療費請求書を被告方に送付するよう申入れ、同病院はこれを承諾したが、最初の一、二回分を送付して来ただけで、その後は被告からの度々の請求にも拘らず請求書を送付して来なかつたし、原告らからの請求も生じていない損害の賠償をも含んでいたので、被告において弁済することは不可能であつた。又、被告が生井医師に対し原告初子の症状を照会する度に、同医師の説明は首尾一貫せず、従つて被告において同原告の症状引いては同原告に対する慰藉料を計り知ることが出来なかつた。

そして、被告は、原告ら代理人山下潔からの示談申入に対しても、弁護士吉住慶之助を代理人に選任、委任し、交渉の機会を作つたのに、原告らは理由なく吉住との交渉を拒否して本訴を提起し、しかも不当な請求をしているものであるから、原告初子の弁護士費用の主張は理由がない。

四、過失相殺

原告初子は前記の如く人身保安構造並びに設備を欠いている原告車のロッカーに乗車していたため受傷し、その主張の如き症状を生じたものであるから、後遺症の発生には同原告にも過失がある。

第四 証拠<省略>

第五 争点に対する判断

一、被告の責任原因

被告は第二の二の事実に基づき、事故車を所有し、その歯科医の業務のために使用していたものであるから、事故車の運行者と言うべきである。

二、示談成立の抗弁に対する判断

「一切不服を申しません」との部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められ、その余の部分については<証拠>によるも未だ被告主張の示談成立の事実を証するに足らず、他にこれを認むべき証拠はない。

三、原告初子の受傷と後遺症

(一) <証拠>によれば、被告は時速五〇粁で事故車を運転していたが沿道の景色に注意を奪われ脇見運転したため、事故車に先行していた原告車が現場付近の信号の表示に従いほとんど停止しかけているのを数米に接近して発見し、突嗟に急停止の措置を採つたが及ばず追突しそのまま原告車を約八米押し進めて更に先行していた二台の四輪自動車にいわゆる玉突衝突させ、原告車の後部を大破させたこと、及び原告初子は原告車の後部座席右側に乗車していて、仮眠しようとして左へ頭を傾けた瞬間被告車に追突され、その衝撃で首の後方への伸展、前方への屈曲を三回繰り返し、後頭部を座席頂部に取付けられている金具で打つたことが認められ<証拠判断省略>る。

(二) <証拠>を併せ考えると、停止中の自動車中の座席に座つていて他車に追突された場合、車の座席を介して力の直接働いた躯幹は前方に移動するが、外力の直接作用しない重い頭部はそれ自体の慣性によつて元の位置に止ろうとするため頸部の運転域を超える頭頸部の後屈即ち過伸展を起こし、次に車は道路との摩擦力のため停止し始めるが人体はその慣性で今度は前進を持続しようとし躯幹は座席との摩擦力のため前方への移動がある程度阻止されるが、頭頸部には全く摩擦力が作用しないため前進を続けて急激な前屈、即ち過屈曲を起こすと、追突車に乗車していた場合は逆に前方への過屈曲次いで後方への過伸展を起こすこと、頸部のこの様な過伸展、過屈曲運動により頸部の頸椎、靱帯、筋肉、神経、血管、関節等に損傷(いわゆる鞭打損傷)を生じそのため頭痛悪心、嘔吐、めまい、上肢の異常感と脱力感、耳鳴、霞眼等種々の症状を生じること、これらの症状は受傷数日後に至つて発生することがあること、過伸展及び過屈曲が生ずる度合は物理的な慣性の法則に従うため追突時の諸種の状況、事故寸前の頸部の姿勢等によつて左右されるが、一般的には時速一六粁で追突した場合にも停止中の被追突車に乗車しているこのような頸部の過伸展及び過屈曲運動が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三) そこで、右(一)(二)の事実及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる<証拠>の結果を綜合すれば、原告車の後部座席右側に乗車していた原告初子は事故車に追突された衝撃によりその頸部が生理的限界を超える過伸展及び過屈曲を強制されて頸部の支持組織(軟部組織)と神経血管系を損傷され(いわゆる鞭打損傷)、その際後頭部を座席頂部に取付けられていた金具で打ち後頭部打撲血腫の傷害を受け、後頭部打撲血腫は受傷後約七日で全治したが、頸部の前示損傷のため事故直後から頸部に疼痛が生じ、昭和四一年一月五日津市から門真市の自宅へ帰る途中で目まい、頭痛が悪化して生井世光病院こと生井克美方へ入院したが、入院当時の症状は後頭部頸部痛、悪心、目まい、頸椎第五、第六に圧痛、胸鎖乳頭筋等頸部軟部組織に圧痛、頸部レントゲン前屈位で頸部第五、第六の間に屈曲、右肩から前腕にかけて脱力感、握力の低下(右手六キログラム、左一六キログラム、同原告は右利き)、頸部運動制限及び運動痛著明であつて、同年二月四日迄入院したが、症状がやや軽快したことと家庭生活から長期間隔離することは精神的に治療上好ましくなかつたため右同日退院し、同年二月七日から隔日に通院を続けたが、同年五月三一日症状が悪化したため再入院したが、長期間の入院は精神的に治療上好ましくないためと症状固定の傾向が著明となつたため同年一二月二八日退院し、以後現在迄毎週三日通院を続けており、症状として後頭部頸部痛、肩こり、右手の脱力、痛み、しびれ、めまい、記憶障害、眼のかすみ、握力低下(右七キログラム、左一七キログラム)右上肢の知覚障害、右手の筋萎縮、前斜角筋の圧痛、大後頭部神経の圧痛があり、これらの症状は固定の傾向が極めて顕著でありこのため雨天の場合には症状が悪化食事の準備も出来ず、雨天でなくとも同原告の子誠を抱いたり、洗濯物をしぼつたり出来ないことが認められる<証拠判断省略>。そして、原告車に同乗していた原告初子以外の何らの傷害を受けていないとの被告の主張については<証拠>によれば、原告車の座席に同乗していた原告一二の姉忍及び妹絹子も本件事故により後頭部に治療を要しない程度の痛みを生じたことが認められ、同女らとの原告初子との症状に差異を生じたのは前記(一)の如き追突時の頸部の姿勢によるものと認められる。又、原告初子の症状は持病(固疾)に基づくもので、昭和四一年一月五日の生井病院への入院は慰藉料を取得するための計画に基づくものであるとの被告主張に添う<証拠>は、<証拠>に照らし容易に措信し難く、他に右被告主張の事実を認めて前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

四、原告らの損害

(一) 原告初子

(1) 療養費

(イ) <証拠>によれば、原告初子は別紙療養費表(一)記載の如く入院並びに通院治療費合計七五九、一九〇円、診検料(大阪医大並びに北野病院)一〇、八九〇円、診断書料三〇〇円、合計七七〇、三八〇円の損害を受けたことが認められる。

(ロ) <証拠>によれば、原告初子は別紙療養費表(二)(イ)及び(ロ)記載の如く入院交通費一〇〇〇円、昭和四一年一月五日から同年二月四日迄の入院雑費一〇、八六〇円を支払つたことが認められる。同表二(ハ)の入院雑費については、<証拠>によれば、ふとん代二、一〇〇円、食費三、一五〇円、薬吸一〇〇円、菓子代九〇〇円の支出したことが認められるが、ふとん代と食費及び薬吸代を除く他の費用は本件受傷による入院、治療と相当因果関係の範囲にある出費であると認めるに足りる証拠はないので、右(二)(ハ)についてはふとん代及び食事代並びに薬吸代合計五、三五〇円の限度で認める。前記表(二)(三)の入院雑費については、<証拠>によれば、寝着一、三三〇円、食費三、四九〇円、喫茶代九三〇円、菓子代八〇〇円を支出したことが認められるが、寝着代と食費以外の費用は同表(二)(ハ)の分と同様の理由によりその出費につき相当性を認められないので、右(二)(ニ)については寝着代及び食事代四、八二〇円の限度で認める。

(ハ) <証拠>を綜合すれば、原告初子は別紙療用費表(二)(ホ)記載の如く付添婦費用として三〇、〇〇〇円を支出したことが認められる。

(2) 逸失利益

原告初子は主婦として家事労働に従事していたところ、本件事故により労働能力を喪失したとして得べかりし利益の損害を主張するが、家事労働そのものは賃金等を対価として支給されるものではないので、家事労働に専従している限り収入の喪失を理由とする損害を認めることは出来ない。

しかし、家事に専従している主婦が、傷害により稼働能力を減少した場合には、家事に従事し得なくなつた程度に応じて通常家政婦を雇傭し、若くは夫が本来の労働にも従事しなければならなくなりこのような夫の余分の労働力の消費は家政婦を雇傭することと同視することが出来るので、右家政婦代若くは夫が余分に労働力を消費したための財産的損害は、夫婦の経済的一体性の観点からこれを主婦の財産的損害と解し家政婦代相当額の賠償を認めるべきであり、主婦が傷害により家事労働に従事出来なくなつたことによる損害を、逸失利益の損害とみるか家政婦代相当額の財産的損害とみるかは所詮法律構成の問題であるから、裁判所はその専権に属することとして当事者の主張に拘束されないところである。

そこで原告初子の本件受傷による右財産的損害(同原告の夫である原告一二の家事労働従事分の評価を含む)については、昭和四一年一月四日から二月四日迄、及び同年五月三一日から同年一二月二八日迄の入院期間中は原告初子において全く家事に従事し得なかつたから、当裁判所に顕著である職業家政婦平均日当一〇〇〇円宛の賠償を認めるべきところ、同原告主張の一日四八七円宛の限度で認めることとし、昭和四一年二月五日から同年五月三〇日迄及び同年一二月二九日から同四二年一〇月三〇日迄は前示の如き通院の割合、後遺症状の程度からすると同原告主張の一日四八七円宛を下らない賠償を認めるのが相当であるので、右合計額三二三、八五五円となるが、同原告主張の三二一、九〇七円の限度で認容する。

(3) 慰藉料

前示の如な本件事故の状況、原告初子の受傷の部位、前示の如き本件事故の状況、原告初子の受傷の部位、程度、後遺症状の内容、程度、入院治療期間並びに本件証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すると原告初子に対する慰藉料は、一、三〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認められる。

なお、<証拠>によれば、原告初子の治療費につき生井病院において昭和四一年二月四日退院以降の分の請求書を被告方に送付してこなかつた事実は認められるが、生井克美医師の原告初子の病状の説明は首尾一貫しなかつたとの被告主張の事実に添う証拠は容易に措信できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(4) 弁護士費用

<証拠>によれば、原告初子は大阪弁護士会所属弁護士山下潔に対し本訴追行を委任し着手金三〇、〇〇〇円を支払い勝訴の場合に謝金として得た経済的利益の二割を支払うことを約したことが認められるところ、当裁判所に顕著な大阪弁護士会の報酬規定、本件事案の難易、訴訟の経過、認容すべきものとした認容額等諸般の事実を斟酌すると、弁護士費用として被告に賠償を求め得べき額は、着手金三〇、〇〇〇円、本判決言渡の日を支払日とする謝金三〇〇、〇〇〇円合計三三〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(二) 原告一二

<証拠>によれば、原告一二は、妻である原告初子の前示の如き後遺症状並びにその治療のため、長期間勤務の外に子である誠の養育を始め家事への従事を余儀なくされて円満な家庭生活を阻害され、今後も原告初子の後遺症状に対する不安に苦しめられるものと予想されるので、これら事実と本件全証拠によつて認められる諸般の事実を斟酌すると原告一二に対する慰藉料は二〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認められる。

五、過失相殺の抗弁に対する判断

被告の過失相殺の抗弁は前示三の如く認められない。

六、弁済の抗弁に対する判断

<証拠>によれば、被告は原告初子に対し、治療費一八三、七三〇円、慰藉料の内金三〇、〇〇〇円を弁済したことが認められるが、この他に原告初子の前記損害に充当すべき弁済がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

七、結論

以上により、原告らの本訴請求は、被告初子が前記四(一)(1)(イ)から同六の一八三、七三〇円を控除した(ⅰ)残額と(ⅱ)同四(一)(1)(ロ)(ハ)(2)、及び同四(一)(3)から同六の三〇、〇〇〇円を控除した(ⅲ)残額と(ⅳ)同四(一)(4)の合計二、五六〇、五八七円、原告一二が同四(二)の二〇〇、〇〇〇円、及び各金員に対する本件不法行為の日の後である昭和四一年一月四日から支払済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で正当として認容し、原告らのその余の請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行並びに同免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。(亀井左取 谷水央 大喜多啓光)

療養費表<省略>

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